〜店員ちゃん奮闘記・出会い編〜

「よし……。ふぁいとっ、です。私!」

 私はガッツポーズを取ってから、緊張した面持ちでコンビニに入る。
 目的は買い物じゃなくて、お仕事のためだ。実は今日から、このコンビニで働くことが決まっている。
 バイトをするのは初めてだ。私はまだ学生なので、社会経験がゼロ。だからなのか、最初は親からバイトを反対されたけど、最後にはこうして認めてもらったというわけだ。
 バイトの理由は社会勉強のためだと話したけど、本当は親孝行をしたいから。お父さんとお母さんに、これまで育ててもらったお礼をしたい……なんて言ったらちょっと重いかもしれないけど、誕生日プレゼントくらいは自分のお金で買ってあげたいと思ったのだ。

(私ももう、子どもじゃありません。いつまでもお小遣いに甘えていてはいけませんっ)

 そのことを友だちに話したら、良い子すぎると笑われたけど、これが私という人間だ。損するタイプなのかもしれないけど、そんな簡単に性格は変えられない。
 ともあれ、私はさっそくバイトの先輩から業務を教えてもらうことになった。それで驚いたのだけど、コンビニのお仕事は想像以上に覚えることが多かった。
 品出しに始まり、店内のお掃除、ホットスナックの準備、ATMやコピー機の使い方をお客さまに聞かれた場合はすぐに応じないといけなかったりと慌ただしい。
 そしてなんと言っても、レジのお仕事がすごく大変!
 商品のお会計だけじゃなく、宅急便の受け付け、公共料金やケータイ料金の支払い、切手や収入印紙の販売、イ・カードの取り扱いと数えたらキリがない。
 特に大変なのは、タバコの銘柄を把握することだった。タバコは家族の誰も吸わないから、どれも同じに見えてしまってちんぷんかんぷんだ。

(うわーん! こんなにたくさん覚えられません〜!)

 コンビニの店員さんって、すごい。私は尊敬の念を覚えてしまう。それと同じくらい、不安にも苛まれた。今日からは私もコンビニ店員なのだから。

(私、うまくやっていけるんでしょうか……)

 そうこうしているうちに、初のレジ打ちの機会が訪れた。私は教わったとおりに商品のバーコードを読み取ろうとする。

「……あ、あれ?」

 だけど、緊張で手が震えてしまってうまく読み取れない。私がもたもたしていると、レジにお客の列ができてしまう。

(あわわっ……どうしよう〜!)

 急げば急ぐほど、焦りのせいで失敗してしまう。バイトの先輩も今は従業員室でほかの業務をしているせいか、私の助けに来てくれない。もはや目の前の小学生くらいの子どもにまで、舌打ちをされてしまう始末。
 そんな調子で私が涙ぐんでいた、そのときだった。
 男の人が子どもに話しかけ、なにやら100円玉を渡すと、その子はご機嫌でレジから離れていった。それから彼は、私にも声をかけてくれる。

「店員さん、慌てなくていいよ。ゆっくりでいいですからね」

 その優しい言葉で、私の心は一気に軽くなった。まだ覚束ないところは多かったけど、レジ打ちを最後までやり遂げることができた。
 彼に買い物袋を渡す際、手が少し触れてしまい、ドキッとなった。袋を落としそうになったけど、どうにか手渡すことにも成功した。
 彼は、がんばってと私に一声かけてから、店を出ていった。

「あ、ありがとうございましたっ!」

 なんだか頭がふわふわしていたせいで、お礼を言うのが遅くなってしまった。私の言葉が彼に届いたかどうかはわからない。
 それでも彼のおかげで、私は初めてのバイトを無事に終えることができた。お仕事は大変だったけど、これからもがんばろうという気になれた。彼と出会わなければ、私はこんな気持ちを抱かなかったかもしれない。
 もしも逆の立場だったら、私は彼のように見ず知らずのコンビニの店員さんを助けることができただろうか……?

(あの優しい人……。名前は、なんていうんだろう?)

 最初は親孝行のためのバイトだったけど、次第にその理由は変わっていった。あの人とまた会いたくて、バイトの日を楽しみにする自分に気づく。
 そして願いは叶い、その後も彼とは何度かお会いすることができた。少しずつ言葉も交わすようになり、いつからか彼の悩みの相談にも乗るようになった。それは恩返しの意味もあるし……恥ずかしいけど、ほかの気持ちもあるような気がしてならない。
 だけどそのお話をするのは、次の機会に取っておこう。

「ふぁいとっ、ですよ。お客さま!」